【完全ガイド】農業をしない人の農地相続|手続き・税金から売却・放棄の選択肢まで徹底解説

2026.02.22

「親から農地を相続することになったけれど、自分は農業をしないし、どうすればいいのだろうか…」
突然、このような状況に直面し、途方に暮れている方もいらっしゃるかもしれません。
管理の手間や固定資産税、複雑な法律上の制約など、漠然とした不安を感じるのは当然のことです。

この記事では、農業をしない方が農地を相続した際に直面する課題の全体像から解説します。
さらに、具体的な手続きや税金の話、そして「売却」「賃貸」「放棄」といったご自身の状況に合わせた最適な選択肢まで、網羅的にご紹介します。
この記事を最後まで読めば、専門知識がなくても、損なく・手間なく問題を解決するための道筋が明確になるはずです。【完全ガイド】農業をしない人の農地相続|手続き・税金から売却・放棄の選択肢まで徹底解説のイメージ画像

アウトライン

  • なぜ厄介?農業をしない人の農地相続が「負の遺産」になりがちな3つの理由
  • 相続したらまずやるべき必須手続き2つ【2024年4月義務化】
  • 【状況別】農業をしない人の農地相続|5つの選択肢を徹底比較
  • 兄弟・親族トラブルを回避する!円満な遺産分割の進め方
  • 困ったら専門家へ!農地相続の相談先一覧と役割分担
  • まとめ:後悔しない農地相続のための意思決定4ステップ

なぜ厄介?農業をしない人の農地相続が「負の遺産」になりがちな3つの理由

農業をしない方にとって、農地相続がなぜこれほどまでに厄介な問題となるのでしょうか。
その背景には、一般的な不動産とは異なる、農地特有の3つの大きな理由があります。
読者の皆様が抱える漠然とした不安を、まずは具体的なリスクとして整理してみましょう。

理由1:手間と費用がかかり続ける「管理の義務」

農地は、所有しているだけで管理の義務が発生します。
たとえ農業をしなくても、土地の所有者として適切に管理する責任を負うことになるのです。
管理を怠って土地が荒れると、様々な問題を引き起こす可能性があります。

管理を怠った場合のリスク 具体的な内容
近隣トラブル 雑草の繁茂、害虫の発生、不法投棄の誘発などにより、近隣住民との関係が悪化するケースがあります。
行政からの指導 周辺の農地利用に悪影響を及ぼすと判断された場合、自治体から改善指導が入る可能性があります。
固定資産税の増額 耕作放棄地と認定されると、固定資産税の課税標準が引き上げられ、税額が最大で1.8倍になることがあります[4]。

このように、農地を放置することは、経済的にも精神的にも大きな負担につながる可能性があるのです。

理由2:特例が使えず高額になりやすい「税金の負担」

農地の相続で特に注意したいのが、税金の負担です。
農業を継続する後継者には「相続税の納税猶予」という大幅に軽減される特例制度があります。
しかし、農業をしない相続人は、原則としてこの特例を利用できません。

その結果、特に市街地にある農地などは「宅地比準方式」で評価されることが多く、その評価額は非常に高額になる傾向があります。
納税猶予が適用されない場合、その高額な評価額に対して相続税が課税されるため、予想外の納税資金が必要になるケースも少なくないのです。
これは、非農家相続人が直面する深刻な経済的課題といえます。

理由3:自由に売ったり貸したりできない「農地法の制約」

「使わないなら、普通の土地と同じように売ればいい」と考えるかもしれませんが、ここにも大きな壁があります。
農地は食料生産の基盤であるため、農地法という法律によってその権利移動が厳しく制限されています。

  • 売買・賃貸の相手が限定される
    農地を農地のまま売ったり貸したりする場合、相手は原則として農業従事者や農業法人などに限られます。
    許可なく売買契約を結んでも、その契約は法的に無効とされてしまいます。
  • 他の用途への転用にも許可が必要
    宅地や駐車場など、農地以外の用途で利用(転用)する場合も、都道府県知事などの許可が必要です。
    特に、生産力の高い優良農地は、原則として転用が認められません。

これらの法的な制約が、農地の処分を困難にし、「売りたくても売れない」状況を生み出す大きな原因となっています。

相続したらまずやるべき必須手続き2つ【2024年4月義務化】

農地を今後どうするか、その選択肢を検討する前に、法律で定められた期限付きの義務的な手続きが存在します。
これらの手続きを怠ると過料の対象となる可能性があるため、相続が発生したら速やかに行動することが重要です。
ここでは、取り組むべき2つの必須手続きについて解説します。

1. 法務局での「相続登記」(相続開始から3年以内)

2024年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されました。
これは農地も例外ではありません。
所有権を法的に確定させ、将来の売却や活用のために不可欠な手続きです。

相続登記のポイント 内容
手続き先 不動産の所在地を管轄する法務局
義務化された期限 自分が相続人であることを知った日から3年以内
怠った場合 正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
重要性 この登記を済ませないと、農地を売却したり、担保に入れたりすることができません。

相続登記は、すべての処分の第一歩となる重要な手続きと認識しておきましょう。

2. 農業委員会への「届出」(相続開始から10ヶ月以内)

相続登記とは別に、農地法で定められた手続きが農業委員会への届出です。
これは、農地の権利者が誰になったのかを行政が把握し、農地の適正な利用を促すために義務付けられています。

農業委員会への届出のポイント 内容
手続き先 農地が所在する市町村の農業委員会
届出の期限 相続の開始を知った日から10ヶ月以内
怠った場合 届出を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
注意点 相続登記を済ませていても、この届出は別途必要です。忘れずに行いましょう。

期限が相続登記より短いため、忘れないように特に注意が必要です。
不明な点は、所在地の農業委員会に早めに相談することをおすすめします。

【状況別】農業をしない人の農地相続|5つの選択肢を徹底比較

必須の手続きを終えたら、次はいよいよ、その農地を今後どうしていくかを具体的に検討する段階に入ります。
ご自身の状況や農地の特性によって、最適な選択肢は異なります。
ここでは、主な5つの選択肢について、それぞれのメリット・デメリットや注意点を比較しながら詳しく解説していきます。

選択肢 主なメリット 主なデメリット・注意点 こんな方におすすめ
1. 売却 まとまった現金が手に入る。管理負担から完全に解放される。 買い手が農家に限定される。転用には許可と高額な費用が必要。 とにかく手放して現金化したい方。
2. 賃貸 管理負担を軽減しつつ、継続的な収入が見込める。所有権は維持できる。 賃料は比較的安い傾向。借り手が見つからない可能性がある。 所有権は手放したくないが、管理はしたくない方。
3. 相続放棄 管理義務や税負担など、一切の責任から逃れられる。 農地以外の預貯金などプラスの財産も全て放棄することになる。 故人に多額の借金があるなど、マイナス財産が多い方。
4. 国庫帰属制度 国に土地を引き取ってもらえる。 要件が非常に厳しく、承認されない可能性が高い。負担金が必要。 管理状態が良く、境界が明確な不要土地を持つ方。
5. 農業を始める 自身で土地を活用できる。納税猶予の特例が使える場合がある。 多大な労力と専門知識が必要。初期投資がかかる。 農業に強い関心があり、時間と労力をかけられる方。

選択肢1:売却して現金化する

最も直接的に負担を解消する方法が売却です。
ただし、前述の通り農地法の制約があるため、主に2つのパターンが考えられます。

  • 農地のまま売却する
    近隣の農家や農業法人に売却する方法です。
    買い手を探すには、地域の農業委員会やJA(農協)、農地専門の不動産会社に相談するのが一般的です。
    ただし、買い手が限定されるため、希望する価格や時期に売却できるとは限らない点に注意が必要です。
  • 農地転用して売却する
    農地を宅地や駐車場などに転用する許可を得てから売却する方法です。
    買い手の範囲が広がり、農地のままより高く売れる可能性があります。
    しかし、転用許可の申請手続きは複雑で、行政書士などの専門家への依頼費用や、造成工事費用などが高額になるリスクがあります。
    特に、優良農地と区分される土地は原則として転用が許可されません。
    あくまで一例ですが、市街化区域内の第3種農地を駐車場に転用し、事業用地として高値で売却できたケースもあれば、市街化調整区域内の第1種農地の転用を試みたものの許可が下りず、多額の調査費用が無駄になったケースもあります。

選択肢2:貸し出して管理負担を減らし収入を得る

所有権は手放したくないけれど、自分で管理するのは難しいという場合に有効な選択肢です。
主に2つの方法があります。

  • 農地バンク(農地中間管理機構)に貸す
    各都道府県にある公的機関「農地バンク」に農地を預け、担い手農家に貸し出してもらう制度です。
    借り手探しから契約、賃料の徴収まで代行してもらえるため、手間が少ないのが大きなメリットです。
    ただし、賃料水準が市場価格より低めになる場合や、立地条件によっては借り手が見つからない可能性もあります。
  • 近隣の農家に直接貸す
    地域の農家と直接、賃貸借契約を結ぶ方法です。
    農地バンクを通す場合と比較して、賃料についてより有利な条件で契約できる可能性があります。ただし、賃料は地域や農地の状況によって変動します。
    しかし、この場合も農地法に基づき農業委員会の許可が必要です。
    無許可での貸し借りは無効となるため、必ず正式な手続きを行いましょう。
    また、契約内容を明確にしておかないと、後々トラブルになるケースもあるため注意が求められます。

選択肢3:相続放棄で一切の権利義務を手放す

農地の管理負担や税金だけでなく、被相続人に多額の借金がある場合などに検討されるのが相続放棄です。

【相続放棄の重要注意点】

  • 部分的な放棄はできない
    「農地だけを放棄して、預貯金は相続する」といった選択はできません。
    相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も、すべて引き継ぐ権利を失います。
  • 期限が短い
    相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。
  • 管理義務が残る可能性がある
    相続放棄をしても、民法第940条により、次の相続人等が管理を開始するまでは、放棄した土地の管理義務が残る場合があります。
    この点は法律の専門家への確認が推奨されます。

安易な判断は後悔につながる可能性があるため、財産全体を把握した上で慎重に検討することが不可欠です。

選択肢4:相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらう

2023年4月に始まった、不要な土地を国に引き渡すことができる新しい制度です。
しかし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではなく、非常に厳しい要件が定められています。

主な承認されない土地の例
– 建物や工作物が存在する土地
– 担保権などの権利が設定されている土地
– 境界が明らかでない、または所有権で争いがある土地
– 崖地、土壌汚染、地下埋設物など、管理に過大な費用・労力がかかる土地

農地の場合、長年放置されて境界が不明確になっていたり、荒廃が進んでいたりするケースが多く、承認のハードルは高いのが実情です。
また、申請には審査手数料(1筆14,000円)がかかり、承認された場合でも10年分の管理費相当額として負担金(原則20万円〜)を納付する必要があります。

選択肢5:農業を始めてみる

もし農業への関心があれば、ご自身で農業を始めるという選択肢も考えられます。
近年では、都市部に住みながら週末だけ農業を楽しむ「週末農業」や、小規模な市民農園から始める方も増えています。
本格的に農業経営を行う場合は、相続税の納税猶予の特例が適用される可能性も出てきます。
まずは地域の農業委員会や自治体の農業支援窓口に相談し、情報収集から始めてみるのも一つの方法です。

兄弟・親族トラブルを回避する!円満な遺産分割の進め方

農地は分割が難しく、現金化にも制約があるため、相続人間の不公平感を生みやすく、意見の対立やトラブルの原因となることがあります。
「誰も欲しがらない」「管理責任を押し付け合う」といった事態を避け、円満に解決するための主な方法をご紹介します。

解決策1:代償分割(農地を相続する人が他の相続人にお金を支払う)

相続人のうちの一人が農地をすべて相続するかわりに、他の相続人に対して、それぞれの法定相続分に相当するお金(代償金)を支払う方法です。
これにより、相続人間の公平感を保つことができます。
ただし、この方法をとるには、農地の適正な評価額を算出することと、代償金を支払う相続人に十分な資力があることが前提となります。

解決策2:換価分割(農地を売却して現金で分ける)

農地を売却して現金に換え、その現金を相続分に応じて分割する方法です。
金額で明確に分けられるため、最も公平感のある方法といえます。
しかし、これまで見てきたように、農地の売却は買い手が見つかりにくかったり、手続きに時間がかかったりする場合があります[5]。
すぐに現金化できるとは限らないことを念頭に置いておく必要があります。

分割方法 メリット デメリット・注意点
代償分割 ・農地を現物のまま残せる
・農業を継ぐ人がいる場合に有効
・農地の評価額で揉める可能性がある
・代償金を支払う資力が必要
換価分割 ・相続人間で公平に分割しやすい
・現金で受け取れる
・農地の売却に時間がかかる場合がある
・希望価格で売れるとは限らない

話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用する方法もあります。まずは相続人同士で冷静に話し合うことが大切です。
感情的な対立を避けるため、早い段階で専門家を交えて相談することも有効な手段です。

困ったら専門家へ!農地相続の相談先一覧と役割分担

農地相続は、法律や税金、不動産に関する専門的な知識が多岐にわたって求められます。
自分たちだけで解決しようとせず、適切なタイミングで専門家の力を借りることが、スムーズな解決への近道です。
どの専門家がどのような役割を担っているのかを理解しておきましょう。

相談先 主な役割・相談できる内容 相談するタイミングの例
農業委員会 農地法に関する手続き全般(届出、許可申請)、農地バンクの紹介、地域の農地情報の提供 相続発生後すぐ、農地の活用・処分を考え始めたとき
司法書士 相続登記、遺産分割協議書の作成、相続放棄の手続き 相続発生後、遺産分割協議を行うとき
税理士 相続税の申告、納税額のシミュレーション、節税に関するアドバイス 相続発生後、特に相続税がかかりそうな場合
行政書士 農地転用許可申請など、行政への許認可申請手続きの代理 農地を宅地などに転用して活用・売却したいとき
弁護士 遺産分割協議の代理交渉、相続人間のトラブル・紛争の解決、調停・審判の代理 相続人間で話し合いがまとまらない、揉めているとき
土地家屋調査士 土地の測量、境界の確定、地目変更登記 土地の境界が不明確なとき、農地転用後
不動産会社 農地の売却査定、買い手探し、売買の仲介 農地の売却を具体的に検討し始めたとき

まずは市町村の農業委員会に相談し、基本的な情報を得た上で、必要に応じて各専門家を紹介してもらうという進め方が効率的かもしれません。

まとめ:後悔しない農地相続のための意思決定4ステップ

農業をしない方にとって、農地相続は複雑で頭の痛い問題です。
しかし、手順を踏んで冷静に対処すれば、ご自身にとって最適な解決策を見つけることは十分に可能です。
最後に、後悔しないための意思決定のステップをまとめます。

  1. 農地の現状を正確に把握する
    まずは、相続した農地の場所、広さ、地目、農地としての区分(市街化区域内かなど)といった基本情報を正確に把握しましょう。
    法務局や農業委員会で確認できます。
  2. 相続人全員で意向を確認し合う
    誰かが農業を継ぐ意思があるか、全員が手放したいと思っているかなど、相続人全員で率直に話し合い、方向性を共有することがトラブル回避の第一歩です。
  3. 各選択肢のメリット・デメリットを比較検討する
    本記事で紹介した「売却」「賃貸」「相続放棄」などの選択肢について、ご自身の農地の状況や家庭の事情に照らし合わせ、それぞれのメリット・デメリット、費用やリスクを慎重に比較検討します。
  4. 必要に応じて専門家に相談する
    手続きが複雑な場合や、税金の計算、相続人間での意見対立など、少しでも不安や困難を感じたら、ためらわずに専門家へ相談しましょう。
    早期の相談が、時間と費用の節約、そして円満な解決につながります。

農地相続は、戦略的な意思決定が求められる課題です。
本記事が、その一助となれば幸いです。

 

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の状況に対する判断や結果を保証するものではありません。実際の不動産取引・税務・法律判断については、税理士・司法書士・弁護士などの専門家へご相談ください。

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